From the West to the East.〜maztoya's blog〜松任谷愛介日々彼是。

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    名器ストローヴィオル 15:31
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      ストローヴィオルの謎
      楽器店やオーケストラでも目にする機会の無いラッパの付いたヴァイオリン。この楽器は「ストローヴィオル」という。日本ではコルネットヴァイオリンという名前で知られている。昭和時代には歌謡曲歌手の横で活躍していたが、今では一部のマニアックな演奏家によって使われる程度で、とくに若い方々は見たこともないのではないだろうか。

      ボディーに空洞はなく、弦の振動を金属のコマが拾ってそれを直接ラッパに伝えて拡声する仕組みになっている。音は小さくて地味。でもラッパ越しの蓄音機から溢れ出したような音色は哀愁を帯びていて、アルゼンチンタンゴやシャンソンの物悲しいメロディーや古いスタンダードを弾くと本領発揮。まさにレトロ感覚そのものの楽器なのである。

      30年前、ニューヨークの骨董屋で偶然出会い、思わず衝動買いするのだが、骨董屋のおやじも値打ちが判らず、ラッキーにも二束三文で入手した。その後少し修理したら音も良くなり、レコーディングやステージで、大変重宝に使わせてもらい、今や我が家の家宝として、陳列棚に国宝級の扱いで並べられている。

      妄想癖のある僕は来客の度にこの楽器を見せびらかしながら、30年間に渡って「これはマーチバンドで仲間はずれとなった弦楽器が、金管楽器と一緒に行進するために作られた楽器に違いない」などと真しやかに語ってきた。これはまったく根拠の無い話で、実は当時のレコーディングに対応するため必要に応じて開発された楽器のようだ。

      まだマイクやアンプが無い時代、音楽家たちは録音時には巨大なメガフォンがついた録音機に向かって唄ったり演奏したりしていた。そのメガフォンが周囲の音を拾い集めて、それを直接レコードに刻んでいくのだ。弦楽器のように音が拡散するとバランスが悪いので、このようにラッパを付けて一方向で音を出せる仕組みにしたという訳だ。

      楽器の刻印

      さて、僕のストローヴィオルはいつ頃作られたのだろう? 同じ楽器は世の中にどれくらい存在しているのだろうか? 家宝という位だから、どの程度の値打ちがあるものか知ってみたいと思った。

      ラッパの部分に小さな刻印があったことから、少しばかり歴史を遡ってみた。

      そこには次のように刻まれている。

      Universelle Expositoin de Paris 1900 - 1900年パリ万博
      Hors Concours − 特別参加
      Membre de Jury − 審査委員会
      Couesnon & Cie ― ケノン社+住所
      Fournisseurs du Armee – 軍への納入業者、供給者

      つまりこの楽器は、フリューゲルホルンで世界的に有名な金管楽器メーカーケノン社が作った珍しい弦楽器だ。そして文字通りに読めば、1900年のパリ万博に特別に出品されたということになる。もちろん僕の楽器はオリジナルではなく、そのコピーということになるのだが。

      ストローヴィオルは1899年、ドイツ人John Mattias Augustus Stroh氏によってロンドンで発明された。5月には特許が申請され、翌年3月24日に承認されている。つまりパリ万博開催3週間前に滑り込むようにして特許を取得したのだろう。

      その後、ジョン・ストロー氏の息子チャールズがロンドンでストローヴィオルを生産していたという記録もあるが、量産化したのはむしろフランスのケノンのほうだった。1901年のストランド・マガジンには、ストローヴィオルは「創造性と技術の結晶」と絶賛されている。ヴァイオリンの他にもラッパの付いたビオラ、チェロ、マンダリン、ギター、ウクレレなど、ストロー楽器と称して次々に生産されたが、アンプやマイクの発明によって需要がなくなり、除々に生産数が減っていったらしい。いつごろ生産を中止したのかは分らない。

      現在ストローヴィオルは、ルーマニアのトランシルバニア地方ビホル県の小さな村で職人たちが作っているという。そして同県のお祭りや結婚式などで民謡楽器として活躍しているそうだ。その場に僕も参加してみたい。

      数年前パリに行った時、刻印の住所を訪れてみたが、今はアパートに変っていて当時1000人の従業員を抱えていたというケノン社パリ工場は跡形もなかった。ならばと、パリ郊外に現存しているケノン社にストローヴィオルのことを問い合わせてみたが、1969年に大火災が発生し、当時の資料をいっさい消失してしまったとのこと。レトロな物語につきまとう悲運なのだろうか。

      同じ楽器を持っている人が世の中にどれほど居るのか、気になるところだ。
      間違いなく多くは居ないはずだ。僕も生きているうちに手放すことは無いだろう。でも1千万円と言われたら心が動く。タダ同然で手に入れたのに図々しい話だ。

      ドイツ人が英国で開発した楽器がフランスで製造され、それを日本人の僕が米国で見付けて日本に連れて行き、生まれ故郷のロンドンに、いま僕と一緒に居る。それを考えただけでも、大河ドラマのようなロマンに浸ることが出来る。


      (本稿は月刊ナイル寄稿文に加筆修正したものです)
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